ここ数年「血糖スパイク」という言葉が聞かれるようになりました。これは空腹時血糖がそれほど高値ではないですが、食後の1〜2時間に血糖値が急上昇することを指し、放置しておくと酸化ストレスを起こし、血管が傷んで動脈硬化が進行しやすくなるといわれています。
私たちの受ける健診では、通常は空腹時血糖のみを検査して食後の血糖を測定する機会は多くはありません。そのため食後高血糖の存在を知らずに放置して将来的な動脈硬化性疾患につながることも考えられます。また糖尿病の検査で多く用いられているHbA1cは過去1〜2カ月の平均血糖値を表す指標なので、血糖の日内変動はなかなか把握できず食後高血糖が分からないことがあります。
2003(平成15)年に発表された欧州の研究データでは、空腹時血糖異常よりも食後(糖負荷試験2時間値)血糖異常で死亡リスクが高いという衝撃的な結果が示されました。また血糖変動は認知症のリスクを高めることも分かってきています。細胞レベルでは持続的に高血糖状態にさらした血管内皮細胞よりも、高血糖と正常血糖を交互にさらした血管内皮細胞の方が細胞死を起こしやすい実験結果が出ています。
最も簡便な方法は食後の決まった時間のタイミングで医療機関で血糖を測定してもらうことですが、正確な時間に採血できるとは限らずやや精度にかけます。医療機関や人間ドックで行われる比較的精度の高いものとしては糖負荷試験があります。水に溶かした75gのブドウ糖を飲んで、血糖値を2時間後まで時間を追って測る検査です。食後の血糖値の変動を正確に知ることができます。
自己管理で血糖測定するときには、自分自身で指先を穿刺針で穿刺し血糖測定する方法がとられます。最近はCGMやFGMといった、体表面にセンサーを装着し2週間程度連続的に血糖測定できる装置が普及してきました。朝昼晩それぞれの食事の後にどの程度血糖変動があるのか、どのような物をどのようなタイミングで食べたときに血糖変動に影響を与えるのか、私たちが実際に知りたいことが分かる非常に便利なデバイスです。ただこれらを利用するためには保険診療上の適応がありますので、かかりつけの医療機関でご相談ください。
最も大切なことは食事面です。糖質主体の食事は避け、三大栄養素をバランスよく食べ、特にタンパク質と食物繊維を十分に摂取するようにしましょう。米国の研究グループによると、朝食にトーストやシリアルを中心に食べた日よりもオムレツやサラダを食べた日の方が血糖の変動が少ないことを明らかにしています。また食事の順番においては関西電力医学研究所の研究で、米飯の前に、野菜または魚や肉料理をとると、食物繊維が腸壁をコーティングして吸収を緩やかに、かつ胃の蠕動がゆるやかになり食後血糖値の上昇が改善することが示されています。また朝食を抜いて昼食や夕食を多めに摂取すると食後血糖の上昇が顕著になることが分かっています。運動に関しては、ニュージーランドの研究で食後の軽い運動( 10分程度のウォーキング)が食後血糖上昇に有効であることが示されています。時間がとれるのであればぜひとも実行してみてください。
これらの生活面の工夫でも食後高血糖が十分に改善しないときには、薬物療法も選択肢になります。糖尿病薬でも食後高血糖を選択的集中的に抑える作用のある薬剤がありますので医療機関でご相談ください。
(木村 靖和 23.04.03)