体のどこかに「痛み」があるというのは、本当につらいものですね。「痛み」はその強さもどのような感じかもご本人にしかわかりません。同じ病気の痛みを経験したことがない人には全く想像することもできません。
痛みには、「急性痛」と「慢性痛」があります。「急性痛」は体の中の異常に気づき適切な対応をとるように教えてくれるシグナルです。シグナルとしての役目を果たした後も続く痛みはどうしましょう。できるだけ早く和らげるかなくしたいものですね。適切な治療で消える痛みはたくさんありますが、なぜか消えない痛みや消せない痛みもたくさんあります。急性痛が長引くと「慢性痛」に変化していきます。
痛みの出方には2種類あります。一つは体の中で痛みの素となる物質「発痛物質」が作られる場合です。けがの痛みなどはこれです。もう一つの痛みは感覚の神経そのものが異常な電流を発生させる状態です。これは神経痛です。テレビで俳優の武田鉄矢さんが話ししているビリビリジンジンといった神経痛の広告がありました。そのあと神経を通して脳まで伝わる途中でいろいろ修飾されて最後に脳で痛みとして感じます。
気持ちの持ちようみたいな精神的なものでも大きく影響されます。「心頭滅却すれば火もまた涼し」ということわざもあります。フィギュアスケーターの羽生結弦選手が競技中けがをしても最後まで滑り切って終わった後に痛みで歩くことができなかったことがありましたね。専門的にはゲイト(門)コントロール理論といいます。痛みの刺激が門を通るときに大きくなったり小さくなったり調節されるという考え方です。
慢性痛の場合、痛みが完全になくなったら動こう動かそうと思っているのは痛みの治療においては逆効果です。人間の体は本来動くようにできていて動かないことでさらに痛みが増える悪循環におちいってしまいます。体の筋肉を動かすことが血液の循環をよくして代謝がよくなり不純物や痛みの素を洗い流してくれます。このように自分自身に痛みを改善させる能力があることを知ることも大切です。医療では慢性的な痛みの悪循環に陥っている状態を反転させる「きっかけ」を作ることも大切です。
最後にもう一つ、痛みのある人に年のせいと言ってしまっては元も甲もありません。年のせいにしてしまうとあきらめるしかなくなり悲しくなります。何歳になっても痛みの少ない質の高い生活が送れるように援助することが医療の大きな目的だと考えています。
(寺田 宏達 20.07.01)