• Home
  • やさしい病気の話

やさしい病気の話

今回は「手術後に出る『よい熱』、『心配な熱』」と題して大高公成先生が話題を提供します。

仙北組合総合病院(現大曲厚生医療センター)では年間1800人、1日平均8人の方が手術を受けています。今回は、手術後に患者さんを悩ませる「発熱」についてお話しします。

手術を経験された方なら記憶があるかもしれませんが、麻酔からさめてしばらくすると熱が上がってきます。熱が上がるとき、悪寒戦慄、手足は冷たく、ブルブルと身体の震えが起こることもあります。何か悪い兆候では?と不安を感じた方も多いかもしれません。でも、この時の発熱は心配ご無用です。手術後の発熱には「よい熱」と「心配な熱」の二つがあるのです。

体温は36〜37℃の間の比較的狭い温度域に落ち着くように調節されています。この温度域より体温が下がると血管収縮や震えなどが起きて体温を上げようとします。これを寒冷反応といいます。逆に体温が上がると血管拡張や発汗により体温を下げる暑熱反応が起こります。
手術によって身体にはさまざまな変化が起こりますが、体温調節の温度域は免疫系の働きによって38℃付近に移動します。そのため手術後は体温を38℃付近に上げるような寒冷反応が起こります。実際に手術後の体温変化を調べた研究では、手術後の体温は平均1・4℃上昇し、術後11時間頃が一番高くなるというデータがあります。例えば、夕方に手術が終わったとすると、翌日の朝に寒気や震えとともに体温が38℃まで上がるというような具合です。しかし、この発熱は感染に対する防御力をぐんと高める効果があります。この意味で、手術後早期の発熱は目的にかなった生体防御反応であり、「よい熱」だと考えられます。体調がそれほど悪くなければ、むやみに解熱剤で熱を下げない方が理にかなっています。

一方、手術後3〜4日頃に起こる発熱の場合は、何らかの病原菌による感染の可能性が高いので要注意です。手術創の感染、肺炎、点滴やおしっこの管からの感染など、急いで原因を調べて傷の処置や管の入れ替え、抗生物質などが必要になります。こうなると手術からの回復も足踏みしてしまうので「心配な熱」です。このような感染は糖尿病や栄養状態の悪い方などの他に、タバコを吸う方にも起こりやすいと言われています。愛煙家の方はご留意いただきたいと思います。

治療のためといえ、手術は患者さんご自身にとっても、周りのご家族にとっても大きな負担となるものです。私たちは患者さんの順調な回復を願って、常に体温の変化や感染の兆候を見逃さないように注意深く見守っています。

(大高 公成 15.09.04.)