今回は「風邪」をテーマにしたいと思います。あまりにも当たり前すぎて驚かれるかもしれませんが、実のところ定義もあいまいで、ひとりひとり受け止めているニュアンスも微妙に異なり漠然としているのが現状です。いったい「風邪」って何でしょう。
医学書では「急性ウイルス性上気道炎を表し、鼻閉(びへい)・鼻汁・咽頭痛・咳を典型的な症状とする疾患群」とされていますが、なかなかひとくくりにすることができません。そこで実際の臨床の現場では、だいたい以下のように分類し、その後の治療の方向を定めています。
1、咳、鼻汁、のど症状すべてが出そろっているとき(同時にではなく時間差で出現することが多い)
これが一般的に「風邪」とイメージされている状態でしょう。ウイルス感染症がほとんどなので、一般的に(インフルエンザに対するタミフル等の抗ウイルス薬を除いて)抗菌薬は治療効果が望めず、それぞれの症状を和らげて、自分自身の免疫力で治ることを手助けする治療が主となります。
2、鼻汁症状が主のとき
ウイルス感染の時が多いと思われますが、細菌性副鼻腔炎(びくうえん)の場合もあり、そのさいは、抗菌薬が必要となることもあります。また、アレルギー性鼻炎も区別すべき疾患です。
3、のど症状が主のとき
細菌性咽頭炎(いんとうえん)(溶連菌感染症を含む)のときには嚥下痛(えんかつう)をともない、時に頚部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)と圧痛が見られます。溶連菌(ようれんきん)感染症の時には抗菌薬の服用が必須となります。
4、咳症状が主のとき
気管または気管支に炎症が及ぶと咳症状が出てきます。これもウイルス感染が多いわけですが、百日咳・マイコプラズマ・クラミジアといった病原体の時には咳症状が長引きやすく、抗菌薬を必要とすることがあります。
1タイプの「風邪」は基本的には特別な処置をしなくとも自然治癒するものです。早く治りたいと焦るお気持ちもわかりますが、抗菌薬を用いずとも治る「風邪」に抗菌薬を使用することで耐性菌が生じて、将来に本当に抗菌薬が必要な病気になった時に困る場合があります。抗菌薬は担当医とよく相談して本当に必要な時に使用しましょう。
ところで「風邪は万病のもと」という言葉がありますが、これは2つの意味を持ち合わせています。一つ目は「急性ウイルス性上気道炎」たる「風邪」によって、二次的に様々な合併症を引き起こし重篤化するときです。インフルエンザ後の肺炎、上気道炎症状後に発症する急性心筋炎、急性糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)、ギランバレー症候群等が該当します。二つ目は一見「風邪」と思われつつも、実は「風邪」以外の病気であったときです。咳・鼻汁・のど症状といった上気道炎症状を伴わずに発熱のみが認められる時があり、腎盂(じんう)腎炎・前立腺炎、感染性心内膜炎といった細菌性感染症や痛風・リウマチ性多発筋痛症・各種の膠原(こうげん)病等の非感染性疾患があげられます。発熱のみで「風邪」と早とちりせず、医療機関できちんと診断を受けて適切な治療を受けるようにしましょう。
(木村 靖和 15.01.27.)