人間が生きていくためには、体の各部分に十分な酸素と栄養が行き渡ることが必要です。酸素と栄養を運ぶのが血液で、血液を循環させるポンプの働きをするのが心臓です。心臓の大きさはその人の握り拳よりやや大きい程度で、重さは成人で250~350グラムです。
安静時、心臓は1分間に約70回収縮を繰り返します。1回の鼓動により送り出される血液量は約70ccです。1分間では5リットル、1日10万回鼓動することにより、7トンもの血液が送り出される計算になります。
心臓というポンプの働きを考える上で重要なのは、ポンプを通過する血液がぐるぐると体を循環しているという点です。環状線の電車のように連続して血管の中に血液を循環させています。ですから、このポンプが故障すると、一つの電車の故障が他の駅に渋滞を広げていくのと同様に次々と体に影響がでてきます。
「心不全」とは病名ではなく、心臓の働きが不十分な結果起きた体の状態です。心臓の働きが低下すると、体のいろいろな部分に負担がかかり症状が現れます。
心臓の働きがどの程度低下しているのか、低下が急に起こってきたのか、徐々に起こってきたのかによって、心不全の種類や程度はさまざまです。心不全をきたす疾患は1つではないからです。心筋梗塞や心筋症、弁膜症、高血圧性心臓病などが挙げられます。症状もさまざまです。十分な血液を送り出せないので、体に必要な酸素が足りなくなり、息切れがしたり、疲れやすくなります。細い血管に血が行き渡らなくなり、手足が冷たくなります。また、血液がスムーズに流れずに、臓器に水分が溜まりやすくなり、足の甲やすねのあたりがむくみます。肺に血がたまると水分が肺ににじみ出し、さらに進むと酸欠状態になるので、横になっていても呼吸が困難になります。
人間の体内には血管が張り巡らされ血液が流れています。骨と筋肉を除けば、実に体の80%以上が血管です。血液の重さは体重の約13分の1です。体重60キログラムの人でおよそ4~5リットルです。毛細血管まで含めると血管の長さは10万キロメートルともいわれ、なんと地球を2週半するほどの長さです。心臓から出た血液が体内を巡り、再び帰ってくる時間は約30秒で、大動脈では毎秒1メートルのスピードが出ています。血管は血液が通る道路ですので、ここが詰まり不具合が生じて本来のスピードが保てなくなると、全身に影響がでます。また、血管はただの管ではなく、それ自体からホルモンや化学物質を分泌・産生する臓器だということも分かってきました。血管は心臓と同様に一つの内臓といっても過言ではありません。
「人は血管とともに老いる」という言葉があります。血管が老いると血液の流れが悪くなり、栄養や酸素が十分に行き渡らなくなります。「心不全」と同様に「血管不全」という言葉が使われるようになってきました。血管の機能が低下している状態を指しています。最近では血管年齢や動脈の硬さを簡単に調べることができるようになってきています。
生活習慣病である、高血圧、糖尿病、高脂血症をしっかりチェックしてコントロールすることは、直接、心臓や血管を守ることにつながるということを知っていただきたいと思います。
(荒川 直志 11.11.09.)