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やさしい病気の話

今回は「 これは病気か、ケガか、不思議な病態『慢性硬膜下血腫 』」と題して大石 光先生が話題を提供します。

約10年前JAの広報誌にこの病名で文章を書いた記憶がありますが、これはとても変わった病気(ケガ?)です。

頭蓋骨の内側には硬膜という硬い膜があります、この膜と脳との間に血が貯まる病気が慢性硬膜下血腫です。
一般的には頭部外傷の後しばらくの間血腫はありませんが、3週間から数カ月後に血腫ができます。しかし必ずしも外傷の既往がなくても突然血腫ができるこ とがあります。そのメカニズムは未だにはっきりしておりません。また、この血腫は変わっていいて被膜に覆われています。内側(脳側)の幕は薄く外側の膜は 厚いことが多く、硬膜ときっちり癒着しています。
血腫の量は多いもので2500CCにも達します。特に高齢の酒飲みの男性多くみられ、統計によっては男性:女性=100:1という発表もあります。フラン スのボルドー(ワインの産地)では女性にもかなり多いという報告もあります。日本一の酒の消費県である秋田県でもそうかもしれません。
症状としては、頭痛、片麻痺(歩行障害が多くみられる)や精神症状(認知症)などが多く、酒飲みの高齢者での脳卒中と間違われることも多いものです。
診断にはCTやMRIが有効です。症状の出現がゆるやかなため脳梗塞を疑ってCT検査をしたら慢性硬膜下血腫だったというケースはよくあります。

治療としては、外科的治療と内科的治療がありますが麻痺などの症状がある場合には、全身状態が許す限り外科治療をするのがベストです。手術はほとんど局所 麻酔で可能です。皮膚を約5cm切開し頭蓋骨にドリルで穴を1ヶ所あけ、硬膜を1cm弱切開し硬膜の内側に 癒着している血腫の外膜を切開すると、ドロドロの血腫が流出します。そして血腫内を生理的食塩水で数回洗浄すれば手術は完了です。

術後症状は早期より改善しますが、高齢者の場合はCT上の血腫腔は数カ月かそれ以上残る場合もあります。内科的治療するケースは一般的に神経脱落症状がない経症例か全身状態の悪いケースに限られます。
マンニトールやグリセオールなどの浸透圧利尿剤の点滴投与を続けることもありますが、軽症例ではトランサミンなどの経口投与で加療します。この場合CTスキャンなどで経時的変化を追いながら治療します。
以上のように外傷後発症することが多いですが、外傷のない場合でも起こるなど病気なのかケガなのかはっきりしない不思議な病態を持ち、男の酒飲みに極端に多く発症するなど、私のようなお酒大好き人間にとっては怖い病態です。
秋田県のように道路が凍る地方では、酔って転倒しないように注意が必要です。

(大石 光  10.11.28.)