前立腺は男性特有の臓器であり、精液の一部である前立腺液を分泌する働きがあります。前立腺は膀胱のすぐ下に位置し、尿道をぐるりと取り囲むように存在しています。また前立腺の構造を果物のみかんにたとえると、実の部分(内腺)と皮の部分(外腺)に区別されます。
加齢により(だいたい50才頃より)、前立腺内腺(みかんの実の部分)が肥大する(大きくなる)ことがわかっています。いいかえると、前立腺内腺より発生した良性腫瘍ということができます。この肥大した内腺が尿道を圧迫することにより、様々な排尿障害を生じた状態を前立腺肥大症といいます。前立腺肥大症は、いわばひとつの老化現象ということができ、年齢とともに発生率は増加するため、高齢者ではごく一般的な疾患であり、日本では60才以上の男性の4~5人に1人が前立腺肥大症と推定されています。
前立腺肥大症の症状としては、大きく以下の2つに集約されます。
1)刺激症状
以上のような症状が段階的に出現しますが、通常は刺激症状より始まり、次第に閉塞症状を伴ってきます。放置すると、尿が出しきれなくなってきて(残尿の発生)、さらに自分の意志では全く尿が出せなくなってしまう場合(尿閉)もあります。この段階になると、膀胱に充満した尿が常時あふれだし(溢流性尿失禁)、腎臓にも影響が出てきます。
上述の自覚症状の評価に加え、以下のような検査を行い診断します。
治療は、薬物療法と手術療法に大別されます。
いずれにせよ、前立腺肥大症の患者さんの多くは軽症~中等症であり、また近年の薬物療法の進歩によって、手術療法によらずに症状をコントロールできるようになってきています。
前立腺肥大症と診断された場合には、日常生活では以下のことを心がけましょう。
平均寿命の延長に伴い、高齢男性に発生する前立腺肥大症は今後さらに増加するものと考えられます。またわが国では前立腺がん(悪性腫瘍)も急増しており、問題化しています。しかし、前立腺肥大症も前立腺がんも早期発見により良好な経過をたどることができるため、おしっこの症状を自覚した場合は、歳のせいだと思い込まず医療機関を受診することをお勧めします。
(黒澤 尚 06.12.08.)